食品ロス削減に貢献する軟包装:賞味期限の延長と使い切りやすさの追求

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食品ロスは、世界的に深刻な問題となっています。日本においても、年間約612万トンの食品ロスが発生しており、その削減が急務とされています(農林水産省, 2021)。食品ロスの原因は様々ありますが、賞味期限切れや使い残しによる廃棄が大きな割合を占めています。

ここで、軟包装の役割に注目したいと思います。軟包装は、食品の品質保持や利便性の向上に貢献するだけでなく、食品ロス削減にも大きな可能性を秘めています。賞味期限の延長や使い切りやすさの追求により、食品廃棄を減らすことができるのです。

本記事では、食品ロス問題における軟包装の重要性を解説し、賞味期限延長のための技術や使い切りやすさを追求したパッケージ設計について詳しく探ります。また、消費者啓発の観点や、環境配慮との両立についても考察していきます。

食品ロス問題の現状と軟包装の役割

日本における食品ロスの現状と課題

日本では、年間約612万トンの食品ロスが発生しています。これは、国民一人当たり約48kgに相当する膨大な量です(農林水産省, 2021)。食品ロスの内訳を見ると、家庭からの排出が約半分を占めており、賞味期限切れや食べ残しが主な原因となっています。

食品ロスは、環境負荷の増大や経済的損失につながるだけでなく、食料資源の無駄遣いでもあります。SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」においても、食品ロス削減は重要な課題として位置づけられています。

軟包装がもたらす食品ロス削減効果

軟包装は、食品ロス削減に大きく貢献できる可能性があります。具体的には、以下のような効果が期待できます。

  • 賞味期限の延長:軟包装の高いガスバリア性により、食品の酸化や劣化を防ぎ、賞味期限を延長できます。
  • 使い切りやすさの向上:小分け包装や再封可能な開封口により、使用量に合わせた開封や保存が可能になります。
  • 食品廃棄の抑制:上記の効果により、賞味期限切れや使い残しによる食品廃棄を減らすことができます。

朋和産業株式会社の取り組みでは、コンビニエンスストア向けのサンドイッチパッケージに着目し、食品ロス削減に貢献しています。透明フィルムを使用することで中身の鮮度が確認でき、食品廃棄を抑制できるのです。

食品メーカーとパッケージ業界の取り組み

食品ロス削減には、食品メーカーとパッケージ業界の連携が不可欠です。両者が協力して、賞味期限延長や使い切りやすさを追求した軟包装の開発に取り組むことが求められます。

実際に、多くの食品メーカーがパッケージ業界と協働し、食品ロス削減に向けた軟包装の導入を進めています。例えば、小分け包装や再封可能な開封口の採用、鮮度保持技術の活用などが積極的に行われています。

今後は、こうした取り組みをさらに加速させ、食品ロス削減に貢献する軟包装の普及を図ることが重要です。

賞味期限延長を可能にする軟包装技術

ガスバリア性を高める多層フィルムの活用

賞味期限の延長には、食品の酸化や劣化を防ぐことが重要です。そのために、ガスバリア性の高い多層フィルムが活用されています。

多層フィルムは、複数の樹脂材料を積層することで、酸素や水蒸気の透過を抑制します。一般的には、ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂に、エチレンビニルアルコール(EVOH)やポリアミドなどのバリア材を組み合わせて使用します。

私が携わったあるスナック菓子のパッケージでは、EVOHを含む多層フィルムを採用することで、賞味期限を従来の2倍に延長することができました。酸化による風味の劣化を抑え、長期保存を可能にしたのです。

脱酸素剤や鮮度保持剤の包装内装入

脱酸素剤や鮮度保持剤を包装内に装入することも、賞味期限延長に効果的です。脱酸素剤は、包装内の酸素を吸収することで酸化を防ぎ、鮮度保持剤は、食品の劣化を引き起こす成分を吸着することで品質を維持します。

これらの剤を適切に使用することで、食品の酸化や劣化を抑制し、賞味期限を大幅に延長できます。ただし、食品の種類や特性に合わせて、適切な剤の選定が必要となります。

私が手がけたレトルト食品のパッケージでは、脱酸素剤を組み合わせることで、常温保存可能期間を1年以上に延長することができました。長期保存を可能にすることで、食品ロスの削減に大きく貢献したのです。

無菌充填包装による微生物制御

無菌充填包装も、賞味期限延長に有効な技術です。無菌充填とは、滅菌された食品を無菌環境下で包装する方法を指します。これにより、微生物による汚染を防ぎ、食品の長期保存が可能になります。

具体的には、以下のようなプロセスで行われます。

  1. 食品の滅菌:加熱などの方法で食品を滅菌します。
  2. 包装材の滅菌:包装材も同様に滅菌処理を行います。
  3. 無菌環境下での充填:無菌室や無菌テントなどの無菌環境下で、食品を包装材に充填します。
  4. 密封:無菌的に密封し、微生物の侵入を防ぎます。

無菌充填包装は、常温保存を可能にし、賞味期限を大幅に延長できる技術です。レトルト食品や長期保存が求められる食品に適しています。

ただし、無菌充填包装の導入には、専用の設備や厳格な管理体制が必要となります。コスト面での課題もありますが、食品ロス削減の観点から、今後の普及が期待されています。

使い切りやすさを追求したパッケージ設計

小分け包装による使用量の最適化

使い切りやすさを追求する上で、小分け包装は非常に有効な手段です。大容量の商品を小分けすることで、使用量に合わせた開封が可能になり、使い残しや賞味期限切れによる廃棄を減らすことができます。

例えば、以下のような小分け包装が考えられます。

  • 個包装:菓子やスナック菓子など、一回分ずつ個別包装されたもの。
  • 分包:調味料や粉末飲料など、数回分ずつ分包されたもの。
  • 小袋:シリアルやナッツなど、少量ずつ小袋に入れられたもの。

小分け包装は、消費者の利便性を高めるだけでなく、食品ロス削減にも直結します。必要な分だけ開封でき、残りは未開封のまま保存できるため、無駄を減らすことができるのです。

再封可能な開封口の採用

再封可能な開封口の採用も、使い切りやすさの向上に効果的です。ジッパーやチャックなどの再封機能を付けることで、開封後も簡単に封を閉じることができ、食品の劣化を防ぐことができます。

私が手がけた菓子パンのパッケージでは、ジッパー付きの開封口を採用しました。一度に食べきれない場合でも、残りを簡単に保存でき、最後まで美味しく食べられるようになったのです。再封可能な開封口は、消費者の利便性と食品ロス削減の両方を満たす優れたソリューションだと言えます。

使い残し量を減らす容器形状の工夫

容器の形状を工夫することで、使い残し量を減らすことも可能です。例えば、以下のような工夫が考えられます。

  • 底面の傾斜:容器の底面に傾斜をつけることで、中身が片寄りにくくなり、使い残しを減らせます。
  • くぼみの配置:容器にくぼみを設けることで、スプーンや spatula で中身を掻き出しやすくなります。
  • 注ぎ口の形状:注ぎ口を細くすることで、中身の出し過ぎを防ぎ、使い残しを減らせます。

朋和産業株式会社では、使い残し量を減らす容器形状の提案にも力を入れています。同社が開発したマヨネーズ容器は、底面の傾斜とくぼみの配置により、最後まで中身を無駄なく使うことができるのです。

使い切りやすさを追求したパッケージ設計は、消費者の利便性を高めるだけでなく、食品ロスの削減にも大きく貢献します。軟包装の設計において、この視点を常に意識することが重要だと考えています。

消費者啓発と適切な情報提供

賞味期限と消費期限の違いを伝える

食品ロス削減には、消費者の理解と協力が不可欠です。特に、賞味期限と消費期限の違いについて正しく理解してもらうことが重要です。

  • 賞味期限:品質が変化する前の期限。期限を過ぎても、すぐに食べられなくなるわけではありません。
  • 消費期限:安全に食べられる期限。期限を過ぎたら、食べるのは避けるべきです。

多くの消費者は、この違いを正確に理解していないのが現状です。パッケージデザイナーである私たちには、分かりやすい表示や説明により、消費者の理解を促す責任があります。

保存方法や使用方法のわかりやすい表示

保存方法や使用方法を適切に表示することも、食品ロス削減に欠かせません。

例えば、以下のような工夫が考えられます。

  • 視認性の高い位置への表示:保存方法や使用方法を、パッケージの見やすい位置に配置します。
  • ピクトグラムの活用:言語に頼らず、誰にでも理解できるピクトグラムを使用します。
  • 具体的な説明:「冷蔵庫で保存」ではなく、「10℃以下で保存」など、具体的な温度や条件を明示します。

私が手がけた調理済み食品のパッケージでは、保存方法と調理方法をイラストと共にわかりやすく表示しました。消費者が正しく保存し、おいしく食べられるよう配慮したのです。適切な情報提供は、食品ロスの削減につながります。

食品ロス削減を呼びかけるメッセージの発信

パッケージを通して、食品ロス削減の大切さを消費者に伝えることも重要です。

例えば、以下のようなメッセージを発信できます。

  • 「おいしく食べ切ろう」「食べ残しゼロを目指そう」など、食品を大切にする呼びかけ。
  • 「empty the package」「すべて使い切ろう」など、使い切りを促すメッセージ。
  • 「Let’s reduce food waste」など、食品ロス削減への協力を求める言葉。

こうしたメッセージを通して、消費者の意識を高め、行動変容を促すことができます。パッケージデザイナーには、社会的な課題解決に貢献する役割もあるのです。

啓発の視点を取り入れたパッケージデザインは、単なる商品の包装を超えて、社会を変える力を持っています。食品ロスという課題に真摯に向き合い、デザインの力で解決を目指すことが、私たちデザイナーの使命だと考えています。

環境配慮との両立を目指して

リサイクル可能な素材選択

食品ロス削減と同時に、環境配慮も重要な課題です。特に、パッケージ素材のリサイクル性を高めることが求められます。

  • プラスチック:リサイクル可能なPETやPPなどを選択し、リサイクルしやすい単一素材の使用を心がけます。
  • 紙:古紙パルプ配合率の高い紙や、FSC認証紙などの環境配慮型の紙を使用します。
  • バイオプラスチック:植物由来のプラスチックを使用し、環境負荷の低減を図ります。

リサイクル可能な素材を選ぶことで、パッケージが廃棄された後も、資源として再利用することができます。私が携わったあるプロジェクトでは、100%リサイクルPETを使用した軟包装を開発しました。食品ロス削減と環境配慮を両立する取り組みとして、大きな反響を呼びました。

包装の軽量化・薄肉化による資源使用量の削減

包装の軽量化・薄肉化も、環境配慮の観点から重要です。使用する資源の量を減らすことで、環境負荷を低減できます。

具体的には、以下のような工夫が考えられます。

  • 軽量化:同じ強度を保ちつつ、素材の使用量を減らします。
  • 薄肉化:フィルムの厚みを薄くすることで、資源使用量を削減します。
  • コンパクト化:内容物に合わせた最適なサイズ設計により、無駄なスペースをなくします。

朋和産業株式会社では、包装の軽量化・薄肉化に積極的に取り組んでいます。同社が開発した軟包装フィルムは、従来品と同等の強度を維持しながら、薄肉化を実現。資源使用量を大幅に削減することに成功しました。

植物由来プラスチックなどの環境対応素材の活用

植物由来プラスチックなど、環境対応素材の活用も進んでいます。石油由来のプラスチックに代わり、トウモロコシやサトウキビなどの植物を原料とするバイオプラスチックが注目を集めています。

バイオプラスチックは、以下のようなメリットがあります。

  • カーボンニュートラル:植物の成長過程でCO2を吸収するため、トータルでのCO2排出量が少ない。
  • 生分解性:一定の条件下で、微生物によって分解される性質を持つ。
  • 再生可能資源:植物を原料とするため、持続可能な資源利用が可能。

私が手がけたあるスナック菓子のパッケージでは、PLA(ポリ乳酸)を使用しました。PLAはトウモロコシを原料とするバイオプラスチックで、環境負荷が低いことが特長です。植物由来プラスチックの活用は、持続可能なパッケージングの実現に向けた重要な一歩だと考えています。

ただし、バイオプラスチックにも課題があります。製造コストが高く、物性面での制約もあります。また、リサイクル性や生分解性の評価も重要な論点です。今後は、こうした課題を克服しながら、より環境に優しい軟包装の開発が求められるでしょう。

食品ロス削減と環境配慮は、時に相反する課題のように見えます。しかし、私たちパッケージデザイナーには、この両立を目指す責任があります。リサイクル可能な素材選択、包装の軽量化・薄肉化、環境対応素材の活用など、様々なアプローチを組み合わせることで、持続可能な軟包装の実現を目指したいと思います。

まとめ

本記事では、食品ロス削減における軟包装の重要性について詳しく解説してきました。

日本では年間約612万トンの食品ロスが発生しており、その削減が急務とされています。軟包装は、賞味期限の延長や使い切りやすさの向上により、食品ロスの削減に大きく貢献できる可能性を秘めています。

賞味期限延長のためには、ガスバリア性の高い多層フィルムや、脱酸素剤・鮮度保持剤の活用、無菌充填包装などの技術が有効です。一方、使い切りやすさを追求するには、小分け包装や再封可能な開封口、使い残し量を減らす容器形状の工夫などが求められます。

また、消費者啓発の観点から、賞味期限と消費期限の違いを正しく伝え、保存方法や使用方法のわかりやすい表示、食品ロス削減を呼びかけるメッセージの発信なども重要です。

さらに、環境配慮との両立も欠かせません。リサイクル可能な素材選択、包装の軽量化・薄肉化、植物由来プラスチックなどの環境対応素材の活用により、持続可能な軟包装の実現を目指すことが求められます。

食品ロス削減と環境配慮は、パッケージデザインにおける重要な課題です。デザイナーである私たちには、この課題に真摯に向き合い、軟包装の可能性を追求する責任があります。

社会課題の解決に貢献できるパッケージデザインを目指すことが、これからの時代に求められているのだと感じています。技術革新と創造性を融合させながら、食品ロスのない持続可能な社会の実現に向けて、軟包装の進化を続けていきたいと思います。